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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)918号 判決 1957年2月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

原判決の判示には、所論のように、避譲義務履行の時期なる言葉を使用している箇所もあるが、その全体の趣旨とするところは、当日両船の距離が一海里乃至四分の三海里に接近した時期(時刻にすれば、午前一一時五九分頃から午後零時二分頃までの間)において日の出丸に避譲の義務が発生したものと解すべきではなく、結局、本件の場合は、海上衝突予防法一九条の適用を見ない場合であつたとするにあるものと解すべきである。すなわち、原審は、同条の避譲義務の発生時期は、諸般の状況により個々の場合につき定むべきものであつて、本件の場合においては、原審認定の諸般の状況にかんがみれば、当日両船の距離が一海里乃至四分の三海里に接近した時期において、相互の方位の変化の度合いが論旨の主張する程度であつたということだけで、直ちに、同条の適用により、日の出丸に避譲の義務が発生したものと解すべきではなく、かえつて、当日午後零時零分から零時七分までの間において約一四度の方位の変更があつたことにかんがみれば、当日零時七分頃までの間に、両船がそのまま進めば無難に替り行くものであることを相互に看取し得る状況を生じ、従つて零時七分頃までの状況においては、日の出丸に海上衝突予防法一九条の避譲義務は発生していなかつたこと、しかるに、宗像丸が日の出丸の存在に気付かず機関の運転を半速力(一時間約五海里)にしたため、両船の方位が変化しなくなり、新たに衝突の危険を惹起するに至つたものであるから、爾後は、宗像丸において避譲の措置を講ずべき義務があつたにかかわらず、同船において適当な避譲措置をとらなかつたため、遂に、本件衝突を惹起するに至つたものであることを判示した趣旨と解すべきである。原審の右判断は正当であつて、所論第一点のように法律の解釈を誤り又は理由齟齬もしくは不備があるということはできない。従つて、これを前提とする論旨第二点も採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎)

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